健康のため、ダイエットのために運動に取り組む人が多いですが、
実は運動することで脳への効果も認められています。
なんとなく、運動することは身体にいいイメージがありますが
どんな好影響があるのか
本日は脳をピックアップして解説していきます。
運動がもたらす脳への影響
まず、運動することでの脳への影響は脳血流が増えることです。
脳血流は心臓から脳へ入っていく血液のことなので、血液量が増えれば、血液の中に含まれる酸素や脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖もたくさん運ばれるため、脳の毛細血管が増え、脳への酸素を十分の含んだ血液が供給されることによって、脳の活性化が見込まれます。
さらに、運動によってさまざまな脳内物質(神経伝達物質)が増えます。
運動によって増える脳内物質には、活動性がアップするノルアドレナリン、
意欲や前向き性格、幸福感に関係のあるドーパミン、脳に安定性を作り出すセロトニン
神経伝達物質を受け取る受容体(BDNF(脳由来神経栄養因子)も増えます。
しかし、運動で疲労状態に達すると、脳の中でもストレスに強く反応する神経細胞が集まった扁桃体という部位に変化が起き、苦痛感が強まります。
ストレスを感じるほどの強度が強い運動は、自律神経の中でも交感神経を活発にし、血管が収縮し、筋肉への血流が滞りやすくなるため、軽めの運動、少し息が弾むぐらいの運動が脳への好影響を与えてくれます。
運動で脳機能の向上
運動すると、脳が刺激を受けます。
筋肉の収縮や運動による刺激によって、実行機能と記憶力、創造性が活発化し前頭前野を中心とした脳とのつながりが強くなることが分かっています。
近年の研究では、運動の刺激は
神経を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質が多く分泌され、神経細胞が活性化しやすくなるとされています。
BDNFとは、脳の中で記憶をつかさどる「海馬」に多く含まれ、神経細胞の働きを活性化してくれることがわかってきており、脳の活性化に大きな役割を持っています。
BDNFは脳だけでなく、血液中にも存在しており、加齢とともに認知機能が低下するのを防ぐために、脳への刺激によるBDNFの分泌が注目されています。
アメリカ・ピッツバーグ大学の行った研究によると、エクササイズを行うことによって、特に記憶力を司っているエリアである、大脳辺縁系の海馬でBDNFが増え、活性化したという報告があり
運動をすることで、脳への刺激が十分に行われていることが証明できます。
脳機能は年齢とともに低下すると考えられていますが
3カ月間の軽運動は高齢者の脳活動を効率化し、実行機能を高めることが筑波大学の研究で明らかになっています。
本研究では、健常な中高齢者 (55~78歳)を3カ月間、低強度の自転車運動を週に3回行ってもらう群(運動群)と、通常の生活を送ってもらう群(対照群)にランダムに振り分け、実行機能を評価する課題の成績や、課題を実施中の前頭前野における脳活動の変化を比較しました。
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20230615090000.pdf
その結果、対照群に比べて運動群では実行機能が向上することが明らかになりました。また、年齢の中央値で中年期(55~67歳)と高齢期(68~78歳)の2グループに分け、年齢によって運動の影響が異なるかを検討したところ、運動による実行機能向上効果は高齢期グループのみで見られ、その脳内機構として課題遂行時の前頭前野における脳活動の効率化(実行機能を評価する課題の成績を脳神経活動の量で割った値が上昇する)が起きていることが明らかになりました。
運動をすることで神経栄養因子に刺激を与えることができ
神経新生や回路機能の強化、神経機能の維持など、身体を動かす機能という面でも好影響であると考えられます。
認知予防のための運動強度
認知症予防のために運動するという一般的な認識から
散歩やウォーキングを行う人が多くみられます。
日本人対象に行われている興味深い研究調査を参考にしています。
九州大学は、高齢者の歩行速度と脳体積および認知症発症リスクとの関連を仮定し
MRIを実施した65歳以上の認知症でない日本人高齢者1,112人を対象に
最高歩行速度と認知症発症リスクとの関連を推定調査を実施しました。
・最高歩行速度の低下は、ベースラインでの脳全体、前頭葉、側頭葉、帯状回、島皮質、海馬、扁桃体、大脳基底核、視床、小脳のGMV低下およびWMHV増加と有意な関連が認められた。
https://www.hisayama.med.kyushu-u.ac.jp/research/disease02.html
・フォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は108人であった。
・潜在的な交絡因子で調整した後、すべての原因による認知症発症率は、最高歩行速度の低下に伴い有意な増加が観察された(P for trend=0.03)。
・海馬、島皮質のGMVおよびWMHVの媒介効果に有意差が認められた。
という結果がわかりました。
研究調査では、男性においては運動強度を少し高くする(上記の実験では、歩行速度)ことで
認知症発生率の低下がみられたため、脳への刺激も運動強度に比例するのではないかと考えます。
認知症発生率が低下したということは、脳機能も正常に働いているため
運動は脳を活性化することができると結論付けられます。
さらに、同研究所によって
17年間の追跡の結果,週1回以上の運動を行っている「活動的」な人では「非活動的」な人に比してアルツハイマー病の長期的な発症リスクが有意に低いことが示されています。
軽度な運動は、認知機能の低下を緩やかにする傾向があり
運動でも、しっかり身体を動かすことが脳への刺激を大きくさせるということが考えられます。
認知症と日頃の運動習慣には、深い関係性があり
生活習慣病の改善と認知症予防のためにも、運動はとても効果的です。
運動しないといけない!とウエアやシューズを買い込んで意気込むよりも
日々の通勤や外出時に階段を使う、一駅分歩くなどして
「無理なく継続できる運動習慣」を手軽に取り入れてみましょう♪